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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
発送してしまったし、きょう伊豆に出発、とお言いつけになったので、お母さまは、しぶしぶコートを着て、おわかれの挨拶を申し上げるお君や、出入のひとたちに無言でお会釈なさって、叔父さまと私と三人、西片町のお家を出た。
汽車は割に空いていて、三人とも腰かけられた。汽車の中では、叔父さまは非常な上機嫌でうたいなど唸っていらっしゃったが、お母さまはお顔色が悪く、うつむいて、とても寒そうにしていらした。三島で駿豆鉄道に乗りかえ、伊豆長岡で下車して、それからバスで十五分くらいで降りてから山のほうに向って、ゆるやかな坂道をのぼって行くと、小さい部落があって、その部落のはずれに、支那ふうの、ちょっとこった山荘があった。
「お母さま、思ったよりもいい所ね」
と私は息をはずませて言った。
「そうね」
とお母さまも、山荘の玄関の前に立って、一瞬うれしそうな眼つきをなさった。
「だいいち、空気がいい。清浄な空気です」
と叔父さまは、ご自慢なさった。
「本当に」
とお母さまは微笑まれて、
「おいしい。ここの空気は、おいしい」
とおっしゃった。
そうして、三人で笑った。
玄関にはいってみると、もう東京からのお荷物が着いていて、玄関からお部屋からお荷物で一ぱいになっていた。