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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
お火を粗末にすれば火事が起る、というきわめて当然の事にも、気づかないほどの私はあの所謂「おひめさま」だったのだろうか。
夜中にお手洗いに起きて、お玄関の衝立の傍まで行くと、お風呂場のほうが明るい。何気なく覗いてみると、お風呂場の硝子戸が真赤で、パチパチという音が聞える。小走りに走って行ってお風呂場のくぐり戸をあけ、はだしで外に出てみたら、お風呂のかまどの傍に積み上げてあった薪の山が、すごい火勢で燃えている。
庭つづきの下の農家に飛んで行き、力一ぱいに戸を叩いて、
「中井さん! 起きて下さい、火事です!」
と叫んだ。
中井さんは、もう、寝ていらっしゃったらしかったが、
「はい、直ぐ行きます」
と返事して、私が、おねがいします、早くおねがいします、と言っているうちに、浴衣の寝巻のままでお家から飛び出て来られた。
二人で火の傍に駈け戻り、バケツでお池の水を汲んでかけていると、お座敷の廊下のほうから、お母さまの、ああっ、という叫びが聞えた。私はバケツを投げ捨て、お庭から廊下に上って、
「お母さま、心配しないで、大丈夫、休んでいらして」
と、倒れかかるお母さまを抱きとめ、お寝床に連れて行って寝かせ、また火のところに飛んでかえって、こんどはお風呂の水を汲んでは中井さんに手渡し、中井さんはそれを薪の山にかけたが火勢は強く