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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
「かず子」
「はい」
「行くところがある、というのは、どこ?」
私は自分が、首すじまで赤くなったのを意識した。
「細田さま?」
私は黙っていた。
お母さまは、深い溜息をおつきになり、
「昔の事を言ってもいい?」
「どうぞ」
と私は小声で言った。
「あなたが、山木さまのお家から出て、西片町のお家へ帰って来た時、お母さまは何もあなたをとがめるような事は言わなかったつもりだけど、でも、たった一ことだけ、(お母さまはあなたに裏切られました)って言ったわね。おぼえている? そしたら、あなたは泣き出しちゃって、……私も裏切ったなんてひどい言葉を使ってわるかったと思ったけど、……」
けれども、私はあの時、お母さまにそう言われて、何だか有難くて、うれし泣きに泣いたのだ。
「お母さまがね、あの時、裏切られたって言ったのは、あなたが山木さまのお家を出て来た事じゃなかったの。山木さまから、かず子は実は、細田と恋仲だったのです、と言われた時なの。そう言われた時には、本当に、私は顔色が変る思いでした。だって、細田さまには、あのずっと前から、奥さまもお子さまもあって、どんなにこちらがお慕いしたって、どうにもならぬ事だし、……」