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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
花は、濃い紫色で、りんとした傲りと強さがあった。
「知っていました」
とお母さまはしずかにおっしゃって、
「あなたには、そんな事が、とても重大らしいのね」
「そうかも知れないわ。可哀そう?」
「いいえ、あなたには、そういうところがあるって言っただけなの。お勝手のマッチ箱にルナアルの絵を貼ったり、お人形のハンカチイフを作ってみたり、そういう事が好きなのね。それに、お庭の薔薇のことだって、あなたの言うことを聞いていると、生きている人の事を言っているみたい」
「子供が無いからよ」
自分でも全く思いがけなかった言葉が、口から出た。言ってしまって、はっとして、まの悪い思いで膝の編物をいじっていたら、
――二十九だからなあ。
そうおっしゃる男の人の声が、電話で聞くようなくすぐったいバスで、はっきり聞えたような気がして、私は恥ずかしさで、頬が焼けるみたいに熱くなった。
お母さまは、何もおっしゃらず、また、ご本をお読みになる。お母さまは、こないだからガーゼのマスクをおかけになっていらして、そのせいか、このごろめっきり無口になった。そのマスクは、直治の言いつけに従って、おかけになっているのである。