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しゃよう

斜陽

太宰 治

「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页

青空文庫

「いいえ、偉いお方」

とひとりごとのように、おっしゃいました。芸術家を尊敬するのは、私どもの家の家風のようでございます。

その師匠さんが、先年奥さまをなくなさったとかで、和田の叔父さまと謡曲のお天狗仲間の或る宮家のお方を介し、お母さまに申し入れをなさって、お母さまは、かず子から思ったとおりの御返事を師匠さんに直接さしあげたら? とおっしゃるし、私は深く考えるまでもなく、いやなので、私にはいま結婚の意志がございません、という事を何でもなくスラスラと書けました。

「お断りしてもいいのでしょう?」

「そりゃもう。……私も、無理な話だと思っていたわ」

その頃、師匠さんは軽井沢の別荘のほうにいらしたので、そのお別荘へお断りの御返事をさし上げたら、それから、二日目に、その手紙と行きちがいに、師匠さんご自身、伊豆の温泉へ仕事に来た途中でちょっと立ち寄らせていただきましたとおっしゃって、私の返事の事は何もご存じでなく、出し抜けに、この山荘にお見えになったのです。芸術家というものは、おいくつになっても、こんな子供みたいな気ままな事をなさるものらしいのね。

お母さまは、お加減がわるいので、私が御相手に出て、支那間でお茶を差し上げ、