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しゃよう
斜陽
「新潮 第四十四巻第七号~第十号」1947(昭和22)年7月1日~1947(昭和22)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,822 字 · 176 页
このお酒は、弟に飲ませません。かず子が飲みます。毎晩、コップで一ぱいずついただきます。お酒は、本当は、コップで飲むものですわね。
こちらに、いらっしゃいません?
M・C様
きょうも雨降りになりました。目に見えないような霧雨が降っているのです。毎日々々、外出もしないで御返事をお待ちしているのに、とうとうきょうまでおたよりがございませんでした。いったいあなたは、何をお考えになっているのでしょう。こないだの手紙で、あの大師匠さんの事など書いたのが、いけなかったのかしら。こんな縁談なんかを書いて、競争心をかき立てようとしていやがる、とでもお思いになったのでしょうか。でも、あの縁談は、もうあれっきりだったのです。さっきも、お母さまと、その話をして笑いました。お母さまは、こないだ舌の先が痛いとおっしゃって、直治にすすめられて、美学療法をして、その療法に依って、舌の痛みもとれて、この頃はちょっとお元気なのです。
さっき私がお縁側に立って、渦を巻きつつ吹かれて行く霧雨を眺めながら、あなたのお気持の事を考えていましたら、
「ミルクを沸したから、いらっしゃい」
とお母さまが食堂のほうからお呼びになりました。