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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
谷間を埋めている樹々の闇は、底知れぬ湖のようだった。じいっと、いつまでも、眸をこらして見ていると、その樹々のあいだに、たしかに巨大な石の壁や柵や蔵屋根のような影が、見える気もする。
「ム! ……。ここはもう敵の真上とみえる。よし、一寝入りとしよう。夜の白むまで」
彼を始め十人は、籠手を枕に大地へ寝た。茂助は、もう水のない瓢を、手拭で巻いて、藤吉郎の枕にと、そっと主人の頭の下へ当てがった。
一刻も寝たろうか。
その間、茂助だけは一人眠らずに、少し離れた所に突っ立っていた。
「オオ……」
その茂助が、声を放ったので、藤吉郎はすぐ首をもたげて、
「なんだ、茂助」
茂助は、東を指さして、
「太陽が昇るところです」
と、答えた。
いわれてみると、夜は白みかけている。この山頂のほかは、すべて雲の海の渺々であった。すぐ真下だという稲葉山城の裏谷さえ何も見えない。
「明けた」
「夜が明けた」
呼び合いながら、蜂須賀彦右衛門も起きる。弟の又十郎も起きる、稲田大炊も起きる、梶田隼人、長井半之丞らも起きあがる。
「さッ、打ち入りましょう」
はや武者ぶるいして、具足の緒や足ごしらえなど直しにかかると、