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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
――そして何でも大声が聞えて来たら、途端にここから、のろしを揚げるのだ。よいか、ぬかるな」
「分りました」
茂助は、合点して、のろし筒のそばに立ちながら、勇み立って谷へ下りてゆく主人たちを見送っていた。
――が、少し不平そうな顔つきでもあった。茂助も従いて行きたいのである。
雲の海は、怒濤の相を起しはじめた。――やがて濃尾の平野はその下から鮮かに見え出してくる。
忽ち、真夏の朝だ。朝からひどく照りつける。
稲葉山の城下は――長良の水も、町屋の辻も、すぐ眼の下だった。けれど人影といったらまったく人ッ子ひとり見えなかった。
「……どうなされたろう?」
陽は高くなる。
茂助は、気が気ではなかった。――やはり初めて戦に臨むせいだろうか、胸ばかりわくわくしていた。
すると、突然。ダ、ダ、ダダダンと、銃音が谺して聞えた。茂助は、その途端から夢中だった。しかし、自分の手で中天へ打ち揚げたのろしの煙が、シュルッと碧い空へ烏賊が墨をふいたように流れたのを、その眼は、確かに見とどけていた。
天から降ってでも来たように――である。
城内の搦手に八、九人の敵が歩いていた。
それも至って、落着き払った顔して、雑草の生い茂っている広い空地を、彼方此方、見まわしながら歩いて来たのである。