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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

彼も、自国の運命を知っていた。

「しかも、如何せん、恃むこの一城も、もはやこのままでは、半月を出でず、落城のほかはござるまい。貴所以下、城兵すべて、餓死か、斬って出て全滅するか。……惜しむべきものと、即ち、主人信長の意をうけて、それがし、降伏をおすすめに来たのでござる。忠義にも、小義と大義とがござる。願わくば、大忠を選んで、城兵の命もたすけ、主家北畠御一族の将来もよろしきように、お考えをめぐらされんことを、使者藤吉郎からも、かくの通り、おねがいするわけでござる」

彼のことばは、智弁に聞えなかった。むしろ訥々としていたが、ただ一生懸命に誠意を伝えようとするところが、よく相手の心をうごかした。

彼はまた、利害ばかりを相手に説かなかった。

容を改めて、

「万民のため」

を説いた。

なお、信長の覇を、

「信長一身のためにあらず」

と、天下の乱を指摘し、一人の英雄を立てて、この紊れを一応ひとつに戻す統業の必要を説いた。

弾正は、彼のいうその点に、最も共鳴した。自分もそれを理想していたので、主君北畠大納言を擁して中原に臨まんものと、献策したこともあるが、北畠家の位置は、国として、気候は温順であり、山海の産物に富み、あまりに恵まれすぎているために、かえって大志を抱く士は少なく、無事を守って逸楽の生を偸もうとする者のみが多い