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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

好きに舌を動かして喋舌っていると、ひとりが、叱ッ――と眼くばせする。他の者もあわてて番所の小屋へはいる。また、歩哨に立つ。

上流から一艘の舟を棹さして来て、美濃側の岸へ上がった、虎髯の武将がある。三、四名の従者も下り、一頭の乗馬も後から曳き下ろされた。

「虎が来た」

「鵜沼の虎が来た」

番所の雑兵は、眼顔でささやき合っていた。この川すじ数里の上流にある鵜沼城の主将で――美濃の猛将といわれている大沢治郎左衛門なのである。

虎が来た――といえば、稲葉山の城下でも泣く子もだまるというくらい、恐い者の代名詞になっていた。その大沢治郎左衛門が、虎髯の中から眼鼻を出して、むっそりと歩いて来たので、番所の兵は、眸もうごかさずに緊張していた。

「不破殿はおらるるか。平四郎殿は――」

治郎左衛門のことばに、

「はッ。御陣所です」

「呼んで来い」

「はッ」

「この方から陣所へお訪ねしてもよいが、ここのほうが、おはなしするに場所の都合がよいから、来てくれいと申して、すぐ呼んで来い」

「はッ。承知しました」

雑兵は、駈けて行った。

間もなく。

その雑兵に、五、六名の部下を従えて、不破平四郎は、大股に川岸へ向って来た。