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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

たとえば、其許の丈夫な歯を三本抜けるかというに、これは抜けないにきまっていましょう」

「そうも限らぬ。法をもってすれば」

と、藤吉郎は軽くうけ、

「この洲股の築城中敵はしばしば、総攻めをやって来たが、その折、薄気味のわるい敵が一方にいた」

「はて。誰であろう」

「いつもじっとしたままで、動いて来ない敵だ。――ここより何里か上流の鵜沼の城主」

「あ、大沢治郎左衛門ですな。鵜沼の虎といわれている猛将です」

「あの男に……その虎に……何か近づく縁引はあるまいか」

「ないこともありませぬ」

「あるか」

「治郎左衛門の弟に、大沢主水なる者があります。年来の懇意ですが」

「お手前と」

「自分とも。弟の又十郎とも」

「それは、ありがたい」

手を打たんばかりな欣びが、藤吉郎の相好をくずした。

「どこにおるのか、その主水なる者は」

「ただ今でも、稲葉山の城下に仕えておると思いますが」

「又十郎を、密使にやって、主水と聯絡がとれまいか」

「必要とあれば、遣わしましょう――」

と、彦右衛門は答えてから、

「御用向きは」

「主水を用いて、大沢治郎左衛門を、斎藤家から離反させ――そしてまた、その大沢治郎左衛門を用いて、美濃三人衆の人物を、一人一人歯を抜くように抜いてゆくという順序だが」