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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

数正は答えた。正直、そういうしか、ほかに言葉もなかった。

そこへ玄以の家臣が、お席を移しましょう、と云って来た。

余り熱心に絵図を見たので、数正もちと肩の凝った容子である。秀吉はすぐ、

「よかろう」

と、気を変えて、先に立った。広間の松韻亭は、翠簾をかかげ、水を打ってあった。

「ただ、驚き入るのほかありません」

そこへ来てから、数正は云ったが、

「何が?」

と、秀吉はもう忘れているかのような顔をした。

「大坂経営の、あの絵図に見る、広大な御計画でありまする」

「あ、大坂の住居のことか。あれでよいかな」

「もし、あれが成るあかつきには、古今未曾有の大城市が、地上に実現されましょう」

「そうするつもりじゃが」

「いつまでの、御予定で」

「年内には、移りたいと思う」

「えっ、年内に?」

「あらましのところでな」

「それにしても、あれ程な大土木、優に、十年はかかりましょうに」

「ははは。十年も費やしては、世が変ってしまう。秀吉も老いてしまう。……城内の細部、調度装飾をも、悉皆、三年で仕了わせよと、命じてある」

「工匠の督励とて、容易とは思われませぬ。また石垣、木材などの数量も、夥しいものでございましょうな」