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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

虚実

ふたりは、あわただしく退がった。

「もう用はない、於通も、余の者も。よく寝ておけよ」

秀吉は、ふたたび、横になった。――まもなく、かれのいびきが、次室まで、きこえて来た。

飛状をうけて、池田勝入が、自身、馬をとばして来たのは、まだ夜のうちといってもよい、四更であった。

「勝入。きめたぞ」

「えッ。岡崎攻めの奇襲を、お命じくださいますか」

夜明けまえに、万端の打合わせは、二人の間に、終っていた。勝入は、秀吉の朝飯をお相伴して、犬山へ帰った。

虚実

あくる日も、うわべは、無風帯の大戦場だったが、底流には、微妙なうごきが、兆していた。

果然――

うす曇りの、午後の空に、大縄手方面から、パチパチと、敵味方の銃声が、聞えだした。

宇田津の軍道路にも、砂ほこりが、遠く望まれ、二、三千の西軍の兵が、敵の塁へ、いよいよ攻勢をとり始めたという。

「はじまるぞ」

「――総攻撃が」

「こよいか。夜明け前か」

見わたすところ、諸将の陣気も、この日、ミリミリと、殺気を天にあげていた。

小牧山、対、楽田。

いま、その西軍側の旌旗を、一望すれば――

二重堀の塁 日根野弘就兄弟(兵、二千五百人)