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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「その下手人は、友松さまだったのですか」

「――と、当時、もっぱらな評判でしたな」

否定もせず、肯定もせず、友松はただ笑ってのみいた。無住の山水に籍をおいて、武将生活を見きッてからの彼もすでに久しいものだが、浩然と笑えば、なおその笑いの底にさびたる戦場声のおもかげはどこやらにある。

生い立ちを洗えば、友松もまた、竹中半兵衛や於通の父小野政秀などと同列のいわゆる美濃衆といわれた稲葉山の斎藤義龍の家中であり、覇府斎藤が、信長に亡ぼされた永禄六年を転機として、竹中一族も、於通の父も、海北友松も、それぞれ、ちりぢりに異なる次への運命にわかれ去っていたものであった。

だから、いいかえれば、こよいの燈下の三人は、同じふるさとで、ひとつ元木のこぼれ芽が、年経てここに会したものといってもよい。いやその気もちは、いわずとも、各々の胸にはあるものと思われる。

かかる縁もあればこそ、竹中半兵衛が死して七年の忌年に、偶然、その血縁から画像をたのまれもしたのであろうと、友松もその筆には一しお精を入れたにちがいない。半兵衛が栗原山にかくれ、また秀吉に招かれてからは、ついに会わずじまいであったが、弱冠時代には、幾度かその人に親しく会ってもいたのである。