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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「オヤ」

と、眼をみはった。

「於通どのではないか。何しに来たのか」

「あれ。友松さまこそ、私とのお約束を忘れたのですか」

「約束?」

「あなたが岩手の里を立つときは、きっと私を、京都へ連れて行ってやる。さもなければ、都の知人を、紹介してあげると、あんなに仰っしゃっていたでしょう」

「ああ、あのことか」

友松は、おもわず頭を掻いて、にが笑いした。いや、当惑にみちた顔をした。

「忘れてはいない。こんど……この秋、岩手へまた来たときに、きっと、約束を果す。それまではおとなしく、松琴尼のそばに仕えて、学問をいそしみなさい」

「それくらいなら友松さまに、あんなに何度もおねがいはしませぬ。尼院の生活は、とてもわたくしには心にそまないのです」

「若い女は、都へ都へと、みな夢みているが、いま時、この乱れた世に、都へなど出たって、自分を悪くするだけのものですぞ」

「お説教は、お卑怯でしょう。それも耳に飽くほど伺いました。けれどわたくしの気もちも、それ以上、おはなししたつもりです。……それ程にまで望むならと、ついにあなたも御同意の上、岩手を去る時はと、お約束して下すったのではございませんか」