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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

……はて、誰か、法要の儀に、明るい者はおらぬか」

側にあった輝政は、自ら任を求めた。

「六月二日は、故右府様の御一周忌。そのお営みについて、大徳寺の僧どもと、打ち合わせの儀でございますか。……それなれば、拙者が出て、諸事、談合をすませましょう」

「む、古新(輝政のこと)には、昨年の大法要にも、奉行の一人であったな。今年の一周忌も、何かと、頼もうか」

「承知いたしました」

輝政は、別室へ立って、大徳寺から来た仙岳和尚や四、五の使僧たちと膝を交えて、夕刻まで、一周忌法要の相談をしていた。

灯ともし頃――

その間の訪客のひとりだった公卿が、牛車でここの役邸の門から帰ってゆくと、しばし客も絶えて、秀吉は夕風呂を出、丹波から来た養子の秀勝や前田玄以などを加えて、夕食を摂っていた。

ところへ、役邸の門の柳へ、従者に駒を繋がせて、どこからか立帰って来た者があった。

秀吉の座へ、すぐ近習の知らせがあった。

「ただ今、蜂須賀どのが、槙島からお帰りになりました」――と。

心待ちにしていた使いとみえ、秀吉は聞くと、

「帰ったか。これへ」

と、すぐ膳を退げさせた。

軒の翠簾に、風がうごき、どこかで女童たちの笑いさざめきが流れていた。