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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
と直感的に、生来の功名心を、むらと、燃えたたせた一事がある。
犬山の城主中川勘右衛門が、にわかに引き揚げを命じられ、自分らのすぐ後から犬山へ帰って来るはずです――と紀伊守のはなしなのだ。
きのうまでの犬山城は、やがての味方か、やがての敵か、この日までは、勝入にも定めのつかないものだったが、すでに秀吉方へ加担を申し送った以上、その犬山は、眼前の敵城だ。しかも天嶮の要地、また、信雄や家康が、本領守備の第一線を託すに足る中川勘右衛門としていることも確実である。――なればこそ、にわかに伊勢陣から外して、その持ち場へもどるべきことを命じたものにちがいない。
勝入は、秘策をねった。そして、
「青鷺の者を呼べ。頭の三蔵がよい」
と、どこかへ近侍を走らせた。
城外の搦め手にあたる黒沢の裏谷に、黒沢衆とも青鷺衆ともよばれている外者(藩外の雇傭人)の小屋溜りがある。近侍は、そこの屯から二十五、六歳の小がらで固肥りな男を呼び出した。
青鷺の者の頭という三蔵はそれだった。旨をうけて、搦め手門内から奥庭へ入った。城主の勝入が木蔭にたたずんでいる。頤で招く……。そして勝入の足もとに平伏する三蔵の耳へ、直々、勝入が何事かを命じた。