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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「委細は、勝入が腹心の者三名に篤と申しふくめてある。そちは馬子に扮して、この金を馬の背に積み、その者たちにただ尾いてゆけばよい」

「いったい、行く先は」

「訊くな」

「へ。へい」

「仕果したら、そちほどな奴、外者にすてておくも惜しい。藩士に取り立て、目をかけてやろう」

「ありがとう存じまする」

不敵者だが、血を浴びたよりは、この大金を見たことのほうが、彼には無気味なふるえを覚えたらしい。やたらに地へ額をすりつけた。そしてふと面を上げてみると、いつのまにか田舎の老郷士といったような老人一名と、見るからに強げな供の若党がふたり、馬を曳いて来て、そこの菰包みを重そうに鞍へ積んでいた。

数寄屋で朝茶を一ぷく。久しく別れていた父子が水入らずの朝飯と見せて、勝入と嫡子の之助は、密談に他念なかった。

「では、すぐ岐阜へ参ります」

「オオ、そうせい」

そこを出ると、紀伊守之助はすぐ自身の家来に、供や馬の用意を命じた。

岐阜は、彼の持ち城、帰国と同時にすぐ移るべき予定を、勝入に何か都合があったらしく、二、三日延びていたものである。

(ぬかるなよ。あすの夜の諜し合わせを)

勝入は、之助が居室へいとまを告げに来た帰りの間際まで、何度も小声で念を押した。