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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「おや? ……」

と、そのとき初めて、三蔵は、うす暗い窓際に、肱をもたせてこっちを見ていた於通の姿に気がついたらしく、

「たれか、そんな所にいたのかい。たれだい、おめえは……?」

と、近づいて行った。

酔いどれの万一の悪戯をおそれて、彼女はすばやく坐り直した。三蔵の眼は、じっと、月洩る竹窓のおぼろ明りに彼女を見すえて、おもわず酒気をさましたらしい。

「ううむ……。これやあ驚いた。お美しくおなんなすったなあ。於通さまでしょう、あんたはね」

「ええ。三蔵も、覚えていましたのか」

「忘れッこはねえが、見ちがえた。あんまりお変りなすったので」

「どう変りました? わたくしが」

「さて、なんといったらいいか。……水もたれそうなお年ばえに」

「だって、わたくしでも、育ちますもの」

「なるほど、育たねえのは、うちのおふくろだけだッたか。はははは。……ところで於通さま、何しにこんな所へ来ているんですえ」

「都へ出たいと考えてね」

「都へ。……造作アねえじゃございませんか。おふくろは何と云いましたえ」

「尼院へ帰れとばかりいって、わたしの心なぞは少しも分ってくれません」

「勿体ねえ、勿体ねえ」