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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

そのとき、庭番の士と物見やぐらの上の者が、彼方で何か大声でものを云いかわしているふうだった。家康も信雄もそれに気づき、ちょっと黙しあっているところへ、家中の一名が、一異変を告げてきた。

「ただ今、御やぐらの物見どもから申しまいりましたが、西北方の遠くの空にあたって、先ほどから黒煙が見え、初めは、山火事かとおもわれましたが、次第に所をかえて、それが幾すじにもなって立ち昇る様子、ただ事ならずとの報らせにございますが」

「なに、西北の遠くに?」

信雄は、首をかしげた。東南と聞けば、伊勢その他の戦場が想起されたであろうが、心得ぬといったような顔つきなのである。

家康は前々日、中川勘右衛門の変死の報を耳にし、それが何となく報告通りには解しかねていたところなので、すぐ、

「それは、犬山の方に望まれるか」

と、たずね、返辞も待たず、また、

「九八郎、見てまいれ」

と、自身の左右へいいつけた。

榊原小平太、大須賀五郎左衛門、奥平九八郎などが、信雄の家来たちと共に、大廊下を駈け、やぐらへ登って行った。

「オオ、あの煙は、まさに羽黒か、楽田か、犬山か、いずれにしても、その辺りにちがいない」