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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

――いや筑前すら、その迅さ、機に敏なるには、胆をつぶし申した」

秀吉は、口を極めて、その功をほめたが、勝入の聟が、その以後にやった岩崎の大敗については、何もいわなかった。

いわれぬだけなお勝入は面目なかった。聟の森武蔵守がやった失敗と損害は、犬山の功をもっても償いきれぬものをと深く恥じているふうに見えた。――殊に、秀吉から十三日付けの坂本発の書状が、尾藤甚右衛門の手にとどいたのが十七日の夕方であり、それには、家康の挑戦にのるな、功に逸るなとかたく戒めてあったが――時すでにおそしであった。勝入がそれを示されたときは、すでに聟が軽々しい行動をやって、惨敗、また主将森の討死という大傷手を味方に見てしまった後なのであった。

それについて、勝入が、

「いや、そう曠れがましゅう仰されては、勝入は、穴にでもはいりたい。聟の短慮からお味方の出鼻をくじき、何と、お詫び申そうやら、実は、お目にかかるのが辛うおざった」

「やれ、よけいな気づかいをするものかな。ははは、池田勝三郎らしくもないぞよ」

秀吉はわざと、彼の青年時代に呼びなれた名をもって彼の精気へ呼びかけたが、共に笑っても、勝入の笑いにはどこか明るさがなかった。