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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「おもしろいの。連日、小銃一発の音もせず、寂として、戦わざるうちの戦いじゃ。……妙は、この機微にある」

「さ。そこです」

勝入は、膝をすすめ、先頃から彼が胸にえがいていた奇略を――例の、山道地図をもひろげて――熱心に、献策した。

秀吉も、熱心に、聞き入った。

いくたびも、

「うん。うむ……なるほど」

と、うなずきもした。

けれど、さいごの結論にいたると、難色をしめした。よかろうとも、やろうとも、容易に、策を容れる顔いろはない。

「もし、おゆるしあれば、勝入は、一族をあげ、率先して、かならず岡崎の城を衝いてごらんに入れる。ひとたび、徳川の、本国岡崎が、突として、お味方の馬蹄の下と聞こゆるならば――小牧の堅塁、いかに備えたりといえ、また、家康、いかに武門の大器なりといえ――攻めずして、かれの内より、総崩れを来すは必定とおもわれる」

勝入は、るるとして、説いてやまず、執拗にまで、かれの持つ“中入りの奇略”の採用を求めるのだった。

「……わかった。うム。考えておこう」

秀吉は、即答を避け、

「だが、おぬしも、そうわが事とおもわずに、ひと事として、もう一晩、考えてみい。