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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

また時々、濾過しない衆愚らしい振舞も見せ、本質の個性をむき出して見せる場合もあるにはある。彼は自分を、非凡なりとは自信していたが、我れは賢者なりとは思っていない。

――とまれ今日、彼にとって、何といっても、忘れがたい人は、やはり故信長であった。

猿よ。

大気者よ。

こっちを向け。

あっちを向いてみろ。

ああ、もう一度、そういわれてみたい――という思いもするのだった。――で、この戦後の建設に多忙極まる中にも、六月二日の忌日を忘れず、大徳寺において、総見院殿一周忌の法事を営んだのも、決して、単なる政略のみではない。人はそうも見ようが、彼は由来、煩悩児である。愚かなる追憶や、その追慕とは相剋する、信孝の処理や、信雄にたいする考えも、こうして先君の位牌に冥々裡に、お告げもし、お詫びしておけば、彼の心は信長の生ける言を聞き得たように、大いに救われる気もするのであった。

その法事もすんだ。

六月の末である。

「だいぶ工事も進んだ頃、いちど見ておこう」

彼は、大坂へ出向いた。

城普請奉行は――石田三成、増田長盛、浅野長政の三人。市区建設奉行は、堀久太郎、片桐且元、長束正家などである。