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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

道義のすたれ、武門の堕落は、ひとり室町旧幕府の専売ではなかった。

主従とも、ひえ飯や、芋がゆをすすって、人となり、出でては戦い、帰っては田に鍬をもったり、手内職などして、ようやく、貧苦と艱難の一時代をのりこえ、ここに天下の大勢を二分して、秀吉と対峙しうるほどな強大となった新進国家康の下にも、やはり権右衛門のような侍もいたのである。

――が、これは潜行奇襲軍にとって、最大な手引きであり、よいさい先であった。

「やあ、権右どの。約束をたがえず、きょうのお迎え、かたじけない。事成るあかつきにはかならず、羽柴どのへ進言して、五万石をまいらせるぞ」

勝入はよろこびを満面にして、彼に云った。

「いや、昨夜すでに、お使いをもって、羽柴どののお墨付はいただいた。この上は、われらも、二心なく御加担いたすであろう」

権右衛門の返辞に、勝入は、秀吉の気くばりと、その実行の確実さに、驚いた。

「して、御進路は?」

「山絵図によれば、これより岡崎への間道は、三ツあるようだが」

「さればです。一道は、三本木を経て伊保へ出るもの。また諸輪をとおり挙母へ出る道。……それと、長久手、祐福寺をこえ、明智、堤と出て、岡崎へいたる道との三つでござるが」