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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「助右。水はないか。わしの竹筒の水は、もうない。……よう喉がかわく」

と、侍者の竹筒まで取って、ごくごく飲みほしていた。

「行軍中、あまり水を飲むのは、よくありません。すこし御辛抱なさいませ」

木下勘解由は、たしなめた。

だが秀次は、顔を向けなかった。秀吉から特に付けられたこの二人は何となく目の上のこぶだった。十七歳の総大将は、当然、気負いぬいていたからである。

「ア、誰だっ。駈けて来るのは――」

「おう、穂富どのです。穂富山城どのです」

「山城は、何しに来たか?」

秀次は、眉をひそめて伸び上がった。槍組の部将、穂富山城守は、そこへ来て、ひざまずいても、息を切っていた。

「孫七様。異変です」

「異変? ……なんだ、異変とは」

「もすこし、岡の上まで、お登りください」

秀次は、彼について、駈け上った。そういうことには、敏捷で、何のおっくうがる風もない。

「あれ。あの土けむりを、ごらん遊ばせ。――まだ遠くではありますが、彼方の山蔭から、平地へかけての」

「ウム。……旋風でもないな。……ほう、先の一かたまり、また、あとからの一群れ。――何だろう、たしかに人数だ」

「お覚悟がいりますぞ」