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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
まあ居れ、まあゆるゆる居れ」
秀吉にこういわれては、数正も、辞去する口実に窮した。慶祝の意を表しに来た使節が、慶祝の席を断って去るも妙なもの――と分別された。
宴は三日にわたった。恩賞を受けた将士やら賀客の登城はひきもきらず、城市はせまく城門も小さい宝寺城は、それらの車駕人馬に溢れた。
けれどこの一城市に靉靆とたなびいている瑞気というようなものを、石川数正は見のがせなかった。
(時代はついにこの人の双肩に――)
と、いう感を正直に抱かずにもいられない。
数正は、今日まで、
(わが主君こそ、その人なれ)
と固く信じて疑わない者であったが、ここで秀吉と起居を共にしている間に、その心境には尠なからぬ変化が起っていた。
彼は事々に、自国とこことを、見くらべた。徳川麾下の一般と、羽柴麾下の一般とを、比較し、反省していた。
そして、内心の結論として、
(何としても、浜松、岡崎はまだ地方的――)
と歎ぜざるを得なかったし、秀吉、家康の人物比較からも、
(わが御主君といえども、筑前守の天性の大気と、天衣無縫の茫とした人がらにある衆望には、到底、及ばないものがある。時人は滔々この人の驥尾に付し、時勢は着々この人に次代を築かせてゆくに違いない)