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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

信雄が、秀吉と協同しつつ、裏面、家康との密交を温めていたなどは、小策といえ、この公達、なかなか隅におけない悪戯をする者といっていい。

しかし、弄策も相手によりけりである。信雄が、家康を用いて、秀吉を牽制し、万一の持ち駒として家康を使おうなどという考えは、そもそも、相手を知らぬ骨頂というほかはない。けれどまた、迂眼者の強味は、相手を知らぬところにある。鹿を追う猟師の山を見ずだ。信雄もその例に洩れない。

この上は、家康を押し出して、秀吉の擡頭を抑えようと図ったのは、彼として、当然に考え至る帰着点であった。

信雄の密使は、一夜こッそり長島を出て、岡崎へ急いだ。

二月に入ってからである。

家康腹心の臣、酒井与四郎重忠は、伊勢地方への旅行を名として、ひそかに長島を訪い信雄と会って、何か、密議するところがあった。

極秘裡のことだったが、その日時から推して、信雄の密使が岡崎へ行った直後なので、それが信雄に対する家康の“答え”であったことは、詮索するまでもない。

同時に、信雄と家康との軍事同盟が秘中に結ばれ、或る時を期して、

秀吉を討つべきこと

に、両者の合意成立を見たことも、恐らく間違いないであろう。