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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「面倒な。……ま、気のすむようにして来い」

秀吉は横を向いて、大村由己と何かべつなはなしをしていた。

秀吉の前を退がると、彼は、飛ぶが如く、やしきへ帰った。

母の室へ、帰りを告げて、坐ったときは、もう心も静かだった。

「甚内どのは、きょうは、常より早い御退出の」

「はい」

と、間を措いて、

「にわかに、さる方面へ、出陣と相成りましたので」

「おう、そうか。今というても、お支度にさしつかえはないはず。心おきなく行って来るがよい」

「……はい」

と、またしばし、ことばの間を措いて、

「ただこのたびの合戦は、いつもの如く、御麾下に従うて参るのと違うて、脇坂甚内の一家の兵をもって戦わねばなりませぬ」

「どうあろうと、戦は戦、武門の名にかけて、存分に働きめされよ」

「もとよりです。……が、この一戦においては、必定、わが脇坂の家は、勝つも滅び、負くればなおのこと、滅ぶものと、かように覚悟いたされます」

「ぜひもあるまい」

「昨日、滝川三郎兵衛めに、お預かりの人質を、主人にも無断で、そっと渡してやりましたこと――はや、お聞き及びでございましょう」

「聞きました。……お許にも、わしという老母がある。