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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
て来て、私の胃のふは旅愁にくれてしまった。いったい私はどうすれば生きてゆけるのだ。
外へ出てみる。町には魚の匂いが流れている。公園にゆくと夕方の凍った池の上を、子供達がスケート遊びをしていた。固い御飯だって関いはしないのに、私は御飯がたべたい。荒れてザラザラした唇には、上野の風は痛すぎる。子供のスケート遊びを見ていると、妙に切ぱ詰った思いになって涙が出た。どっかへ石をぶっつけてやりたいな。耳も鼻も頬も紅くした子供の群れが、束子でこするようにキュウキュウ厭な音をたてて、氷の上をすべっていた。――一縷の望みを抱いて百瀬さんの家へ行ってみる。留守なり。知った家へ来て、寒い風に当る事は、腹がへって苦しいことだ。留守居の爺さんに断って家へ入れて貰う。古呆けて妖怪じみた長火鉢の中には、突きさした煙草の吸殻が葱のように見えた。壁に積んである沢山の本を見ていると、なぜだか、舌に唾が湧いて来て、この書籍の堆積が妙に私を誘惑してしまう。どれを見ても、カクテール製法の本ばかりだった。一冊売ったらどの位になるのかしら、支那蕎麦に、てん丼に、ごもく寿司、盗んで、すいている腹を満たす事は、悪い事ではないように思えた。