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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

千鳥はいぶかしそうにこちらを見た。その眼には涙が溜まっていたが、菅田平野の話を聞いているうちに、眼鼻だちのおおらかな顔がしぜんとほぐれ、十郎太が本気になって介錯しようとした、というところまでくると、あどけない唇に微笑がうかんだ。しかし、彼の話が終らないうちに、十郎太が陸田夫人をつれて戻った。

「まあ、お母さま」

千鳥は叫び声をあげて、母親のほうへ両手をさし伸ばした。おの女は静かに入って来て娘のそばへ寄り、娘の手を握りながら乾し草の束へ腰をおろした。

「お母さまはここへ入るの初めてよ」おの女は小屋の中を眺めまわしながら云った、「――乾し草がよく匂うこと、お母さまはこの匂いが大好きよ、あなたおけがはなくって、千鳥さん」

「ええお母さま」千鳥は母の腕のところを撫でながら云った、「もうちょっとで捉まろうとしたとき、じゅろう(十郎太)さまが助けに来て下さいましたの」

「聞きましたよ」

「それからじゅろうさまたちは、お父さまも助け出して下さるのですって」

「それもいま聞きました」とおの女はまた小屋の中を眺めまわした、「――乾し草っていつもこんなによく匂うものかしら」

「ええいつも匂いますわ、わたくしときどき入ったことがあるけれど、いつだってこのとおり匂っていますわ、ねえ、じゅろうさま」