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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

三

「伯父の一人娘ですよ」と十郎太は云った、「――私は婿養子になるはずで、三年まえにこっちへ呼ばれて来たんです」

「御城代の婿養子」

「つまらないことを云いました」と十郎太は首を振った、「――もう切り上げるとしましょうか」

三

枕を並べて寝ると、菅田平野はたちまち眠りこんでしまった。喰べたいほど喰べ、飲みたいだけ飲み、温かい夜具に入ったのだからむりもない。横になるとすぐいびきをかいて熟睡した。十郎太はしばらく寝つけなかった。菅田の云うようには決心がつかないのである、いちど燃えあがった火を消されたばかりなので、その火がすぐには燃えつかない、というような感じであった。

「あの黒藤源太夫め」と彼はつぶやく、「――仲島弥五郎に前林久之進、奸物ども」

そうして、かれら奸物どもの風貌を思いだしてみる。黒藤源太夫は五十二歳の次席家老、仲島弥五郎は四十五歳で留守役上席、前林久之進は五十歳で国許用人。これらが藩政を毒する中心人物で、なかんずく黒藤と仲島とがその首魁であった。むろん十郎太はかれらを知っているし、その風貌もありありと眼にうかぶが、同時に「日日平安」などと云う、のんびりした伯父の顔が見え、自分を江戸へ追い払ったことなども頭にひっかかって、どうにも闘志がわいてこないのであった。