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にちにちへいあん
日日平安
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页
「どうもそれは、たしかとはいえないようですが」と十郎太が口ごもった、「――ほかに手はないですか」
「問題は時間ですからね」
こう云って、それから突然「あっ」と菅田平野は声をあげた。彼は本能的に鼻の穴へ指をもっていったが、鼻毛を抜くのはやめ、その手を拳にして自分の額を叩いた。
「なんという頓馬だろう」と彼は云った、「このおれはなんという頓馬の、へぼ頭だろう、自分で自分を忘れているとはあきれはてたものだ」
「なにかあるんですか」
「この私ですよ」と菅田平野は云った、「――私自身が密書になるんです」
みんなけげんな顔をした。
「こうです」と彼は続けた、「私はごらんのとおり尾羽うち枯らした姿です、この私が黒藤邸へいって密告するんです、宿賃がないので寺の縁下に寝たと云ってもいいでしょう、そこで密会している貴方がたの密談を聞いた、耳にはさんだ名前はこれこれ、どうです、これなら間違いはないでしょう」
十郎太は寺田に振返った。寺田文治は珍しく微笑したし、他の三人も頷いた。
「ではそれで計画をたて直しましょう」
菅田平野は書きかけの密書をひき裂いた。
新しい計画はこうである。