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にちにちへいあん
日日平安
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页
約半刻ばかりのち、裏手と思われるあたりで、馬を曳き出すけはいや、多数の人々のたち騒ぐ物音が聞えた。馬もかなりな頭数らしく、いななきや蹄の音が右往左往するようであった。菅田平野はじっと横になっていた。廊下を足音が近づいて来て、この部屋の襖をあける者があった。それでも菅田平野は動かなかった、旅嚢を枕にして、じっと眠ったふりをしていた。襖はすぐに閉り、足音は廊下の向うへいった。
やがて騎馬の者たちの出てゆくのが聞えた。重おもしい蹄の音が一隊になって、この屋敷の外を右から左へ廻り、そうしてたちまちのうちに遠く、遙かに遠く消え去った。――菅田平野は起きあがり、包をあけて油綿を出した。彼は用心ぶかくやった、燧石は戸納の中で打ち、油綿をよくほぐして、両端に火をつけた。火はなかなか燃えつかなかったが、油紙へつけてやると燃えついた。それを上段の蒲団の上にのせ、さらに、戸納の天床の板を外して斜めにし、その板から天床へ燃え移るようにした。油紙は景気よく焔をあげ、油綿もくすぶりながら、赤い焔の舌をちろちろとひろげた。戸納の中はたちまち油臭い煙で充満したが、その煙は天床の(板を外した)穴へすいすいと吸いこまれてゆく。