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にほんのでんせつ
日本の伝説
柳田 国男
「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页
麦こがしは炒り麦をはたいて作った粉であって、皆さんも御承知のとおり、食べるとよく咳が出るものであります。それを食べて今一度、咳の出る苦しさを思い出して下さいというつもりであったと見えて、近頃では焼き蕃椒を供える人さえあるという話でありました。それからお茶を添えるのは、こがしにむせた時に茶を飲むと、それで咳が鎮まるからであろうと思います。(利根川図誌等。千葉県印旛郡臼井町臼井)
しかし東京などの咳のおば様は、別にそういう来歴がなくても、やはり頼むと子供の百日咳を治してくれたといいますから、この伝説は後で出来たものかも知れません。築地の稲葉家の屋敷の咳の爺婆は、以前は小田原から箱根へ行く路の、風祭というところの路傍にあったのを、江戸へ持って来たものだということであります。風外という僧が、庵を作ってそこに住み、後に出て行く時に残して置いたので、おおかた風外の父母の像であろうといいましたが(相中襍志)、親の像を残して去る者もないわけですから、やはりこれも道の神の二つ石であったろうかと思います。山の峠や橋の袂、または風祭のように道路の両方から丘の迫ったところには、よく男女の石の神が祀ってありました。