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にほんのでんせつ
日本の伝説
柳田 国男
「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页
近頃になっても、境に近い大木の幹から、珍しい形をした古鎌が折り折り出ました。そうしてそれと同じ鎌が、諏訪では今もお祭りに用いられるので、薙鎌と書く方が正しいようであります。何にせよ諏訪の明神が、境をお定めになったという伝説は、鎌を打ちこむ神木があるために、出来たものに相違ありませぬが、その話の方はおいおいに変って行くのであります。例えば越後の神様は、諏訪の神の母君で、御子の様子が聞きたくて、越後からわざわざお出でになる路で、ちょうど国境の所で、諏訪の神様とお出あいなされ、諏訪様が鹿島、香取の神に降参なされたことをきいて、失望してここから別れて、越後へお帰りになったなどというのは、後に歴史の本を読んだ人の考えたことで、安房や上総で、源頼朝の旅行のことを、附け加えたのと同じ様な想像であろうと思います。
飛騨の山奥の黍生谷という村などは、昔川下の阿多野郷との境が不明なので、争いがあって困っていた時に、双方の村の人が約束を立て、黍生谷では黍生殿、阿多野は大西殿という人を頼み、牛に乗って両方から歩み寄って、行き逢うた所を領分の境とすることにしました。尾瀬が洞の橋場で、その二つの牛がちょうど出あい、それ以後はこれを村堺に定めたといっております。