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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

二十日ばかりしてのことであった。行商から帰って夕飯をすました甚九郎は、行灯の前に横になっていたが睡くなって来た。で、蒲団を出して行灯を消して寝たが、床についてみると眼が冴えて睡れない。しかたなしに暗い中で眼を開けていると、雨戸の隙間がぎらぎらと青く光った。不思議に思ってその方を見つめた。と、雨戸を戸外から叩く者がある。

「開けてくださいよ、私ですよ」

その声はたしかに女房の声であった。甚九郎は蒲団を頭から冠って顫えた。

「開けてくださいよ、開けてくださいよ」

甚九郎の耳はがんがんと鳴った。と、雨戸ががらがらと開いて女房が枕頭に来た。

「何故私をそんなに嫌います、いくら嫌われても、私は貴郎を離れませんよ」

甚九郎は死んだつもりで顔をあげた。何時の間にか行灯が点いて女房が艶かしい姿で坐っていた。

甚九郎はもう怪しい女を刺し殺すより他に手段がないと思った。彼は此処では好い商がないから会津の方へ往こうと云って、旅装束をして二人で家を出た。

そして、山路を往ってその日の午比、小さな辻堂のある処へ往った。甚九郎は女とその辻堂の縁に腰をかけて、腰にしていた弁当を開いた。