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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

法衣

千住か熊谷かのことであるが、其処に某尼寺があって、その住職の尼僧と親しい壮い男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。

尼僧はそれを心配して、何人かその辺の者が来たならその容子を聞いてみようと思っていると、ある日その男がひょっこりやって来た。

「どうしたかと思って、心配してたのですよ」

「少し病気でしてね」

「もう好いのですか」

「ああ、もう癒りました」壮い男はその後で、「今日は一つお願いがあって来ましたよ」と云った。

「なんですか」

「法衣を貸してくれませんか」

「貸してあげましょうが、それをどうするのです」

「少し入用です」

で、尼僧は奥から一枚の法衣を持って来て、壮い男の前に置いた。壮い男は嬉しそうにそれを持って帰って往った。

そして、暫くして、何かの用事で尼僧が寺の玄関へ往ってみると、壮い男に貸したはずの法衣が置いてあった。玄関口を出て往く時に、壮い男がたしかに持って出たことを知っている尼僧は、不審でたまらなかった。それでは持って帰っているうちに、もういらないようになったから、それで返しに来たものであろうかと思った。それにしても、何とか一言云うはずであるにと、物堅い壮い男の平生を知っている尼僧は、どうしても不審が晴れなかった。