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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
でもお願い申しとうございます」
侍はもう女に対する執着が湧いていた。女を他へやりたくはなかった。
「それでは将来の見込が附くまで、此処にいたが宜いだろう」
「では私のお願いをお聞きくださいますか、ありがとうございます」
女の顔は晴ばれとして、黒い眼をうっとりとさして男の方を見た。侍の眼もうっとりとしていた。
その夜は朝まで暖かであった。女と枕を並べていた侍は、ふと眼を覚まして見ると、夜が明け放れているので、女を起さないようにそっと一人で起きた。起きる時に見ると、女は蒼白い顔を男の方に向けて、気もちよさそうに眼をつむっていた。
侍は庖厨の方へ往って、其処から庭におりて手水をつかい、それが済むとそのあたりの戸を静に静に開けたが、女は疲れているのか起きて来る容子がなかった。侍はにこにこしながら米を洗って竈にかけ、それに火を焚きつけた。それでも女は起きて来なかった。侍は絶えずにこにこしていた。
やがて飯もできたが、それでも女が起きて来ないので、どうかしたのではないかと思って、そっと奥の室へ往ってみた。女は枕から頭を落して真蒼な顔を見せていた。侍はびっくりして枕頭へ寄って往って、唐草模様のついた夜具に手をかけて捲ってみた。