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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
鍛冶の母
一
土佐の国の東端、阿波の国境に近い処に野根山と云う大きな山があって、昔は土佐から阿波に往く街道になっていた。承久の乱後土佐へ遷御せられた後土御門上皇も、この山中で大雪に苦しまれたと云うことが「承久記」の中にも見えている。旧幕の比は土佐藩で岩佐の関と云う関所を置いてあった。これは土阿の国境に聳立った剣山や魚梁瀬山の脈続きで、山の中の高い処は海抜四千一百五十尺もある。今、安芸郡の奈半利村から東に向って登ると、米ヶ岡、装束が森など云う処があって、それから絶頂の岩佐の関址が来る。其処には岩佐清水と云う清水が湧いている。其処から千本峠、花折坂など云う処を過ぎると野根村になる。この間が殆んど十一里、もとは杉檜の巨木が森々と生い茂っていて、この山名物の狼が百千群をなして時とすると旅人を襲ったのであった。
何時比のことであったか、この山を一人の飛脚が越えていた。飛脚は阿波の方へ往く者であった。それは秋の夕方のことで落ちかけた夕陽が路傍の林に淋しく射し込んでいた。長い長い山路で陽が入りかけたので飛脚は傍視もしなかった。それでも野根村の人家へ往き着くには、どうしても夜になるぞと彼は思っていた。