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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
飛脚はかたっぱしから狼の頭を斬った。下に眼をやると樹の下は狼の眼の光で埋まるように見えた。狼の吠え狂う声が山一面に反響をかえした。
五六十疋ばかりも斬ったところで、何処ともなく怪しい声がしだした。
「佐喜の浜の鍛冶の母を呼うで来い」「佐喜の浜の鍛冶の母……」
その声が止まると上へ上へあがっていた狼が樹から離れて、その周囲を廻りだした。
飛脚は、狼が上へあがらないようになったので、刀を手にしたなり休んでいた。休みながら「佐喜の浜の鍛冶の母を呼うで来い」と、云った怪しい詞を思いだして、あれはなんのことだろうかと考えてみた。「佐喜の浜の鍛冶の母」彼には何うしても合点が往かなかった。
狼は樹の周囲を廻ることをやめなかった。そして、一時刻ばかりもすると、廻っていた狼が樹の幹に執っつきはじめた。その時月は少し傾いて位置を変えたので、一条の光が枝葉の間から落ちて来て飛脚の半身から下を照らしていた。飛脚は狼の血でべとべとになった血刀を持って下の方を覗いていた。
幹に執ついていた数多の狼の背を踏みながら、一疋の大きな狼があがって来た。毛色の白く見える肥った狼で、それが大きな口を開けていた。