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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ。

その時でありました。手前の背後の方から背の高い婆さんが、がむしゃらに人を突き退けるようにして前へ出て来ました。私もすんでのことに、その婆さんに突き飛ばされるところでありました。

「ひどいことをしやがる婆あだ」

「婆さん、後生の悪いことをするない」

などと、その婆さんに向って怒る人もありました。手前も癪に触りましたが、場合が場合でありましたからして、すぐ懐しい朋友のような気になって、婆さんのすることを見ておりました。婆さんの頭には白髪の小さな髷がありました。婆さんはそのままお駕籠の傍へ寄って往って、垂れを頭ではねのけるようにして、頭をお駕籠の中へ突き入れました。手前はあまりな婆さんの仕打を見てまして、仏罰を恐れないのか、なんと云う後生の悪いことをする婆さんだ、と、怒るよりは、空恐ろしい思いをしましたところで、婆さんの頭は突き戻されるようにお駕籠の中から出るとともにその体は背後へよろよろとなりました。婆さんの額には、門跡様の白い青みがかったなお手がかかっておりました。私は門跡様が婆さんを煩がって、お突きになったものだと思いました。