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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
忘恩
土佐の侍で大塚と云う者があった。格はお馬廻り位であったらしいがたしかなことは判らない。その大塚は至って殺生好きで、狩猟期になると何時も銃を肩にして出かけて往った。
某日それは晴れた秋の午後であった。雑木の紅葉した山裾を廻って唯ある谷へ往った。薩摩藷などを植えた切畑が谷の入口に見えていた。大塚はその山畑の間の小径を通って、色づいた雑木に夕陽の燃えついたように見える谷の窪地の方へ往こうとした。
一匹の灰色の兎が草の中から飛びだして大塚の前を横切って走った。獲物を見つけた大塚は、肩にしていた銃をそそくさとおろして撃とうとしたが、兎は何処へ往ったかもう見えなかった。大塚は銃を控えて右を見たり左を見たり、また木の下方を透しなどしたが、兎はとうとう見つからなかった。
(折角の獲物を逃がしてしまった、何か一つ大きなものを獲りたいぞ)
大塚はこんなことを云いながら歩きだした。彼は今朝早くから谷から谷をあさっていたが、腰の袋に一羽の山鳥を獲っているだけで他に何も獲っていないので、何か一二疋好い獣を獲りたかった。兎は彼の眼から放れなかった。彼はもしやそこらあたりに隠れていはしないかと思って、注意しいしい歩いた。