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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

大塚は谷の窪地の隅になった処へまで往った。山畑はそこでなくなって、それから勾配のきつい登り坂になるのであった。兎はとてもいないと思ったので、銃を元の通り肩に懸けて二三歩往った。と、思うと、彼の身体は不意に脚下の穴の中へ陥ちて往った。水の少いその山畑を作る人の掘ったものであろう、二丈余りある深い山井戸であった。大塚は驚いて微暗い穴の中を見廻した。幸いにしてこぼれ土のために水のある処は埋まってしまって、僅かに草鞋の端が濡れる位の水しか湧いていなかった。

(古井戸へ陥ち込んだぞ、上へあがらねばならんが、あがれるかしら)

大塚は苔の生えた穴の周囲に注意したが、手掛りにするような処は見つからなかった。上の方はと見ると穴の入口にうっすらした陽の光があった。

(とても、彼処までは出て往けない、それに人家が遠いから、いくら大声を立てたところで、聞きつけてやって来る者もない、こいつは困ったことになった、腰にはまだ一回分の握飯は持っておるが、とてもそんなことで命を支えられるはずのものでない、こうなるのも前世の約束ごとだろう、しかたがない、井戸の中で餓死に死ぬるは武士の恥じゃ、思い切って切腹しよう、餓死にすることは、武士の恥じゃ)