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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

枝屑は首筋にも当って落ちた。大塚はまた眼を開けた。一匹の獣が井戸の上を飛び越えた。その影がかすかに入口に射している日の光に綾をした。二三枚の枯葉がまたちらちらと落ちて来た。

(初めのはたしかに猿であったが、今のは何であろう)

大塚はこう思いながらちょっとまた眼をつむって考えた。

(ついすると、猿の千匹伴が、集まって来ているかもわからん、薩摩藷でも執りに来ているだろうが、何しろ猿では助けてもらうことはできんのじゃ)

大塚はもう自殺するより他に道が無いと決心した。決心したもののなるだけなら犬死はしたくなかった。彼の心の底の方には何かしら己の危難に陥入っているのを知って助けに来てくれる者があるような気がして、刀に手をかけるまでにはゆかなかった。

(何人か来そうだぞ、何人か助けに来るような気がするぞ)

彼はこんな気もちでまた上の方に眼をやった。綱のようなものが一尺ほど井戸の口からさがっていた。

(不思議なものが見えて来たぞ、何だろう、何人かおるだろうか)

綱のようなものは三尺近くもさがって来た。

(たしかに綱じゃ、何人か俺が落ちたことを知って、助けてくれるために、綱を垂れているのだろうか、さがる、さがる、さがって来た)