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ひるのはなび
昼の花火
山川 方夫
「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页
健康な、のびやかな線だと思った。良い母になれる人だ、そう思った。
小暗くなって行く屋上で、彼は、そのやわらかな線の動きを、何べんも盗み見ていた。それは、肉慾とは無縁な誘惑とおもえた。むしろ、見ることのためにつねに彼女との距離を忘れてはいけないという、心のなかの制動のようなものだけが、彼の意識にあった。
「でも、川開きのなかった夏は、いま思うと、やっぱりとても淋しかったっていう気がするのよ。……あ、あれ、芽出柳っていうの。ご存知?」
丁字菊。銀爛。花苑。……花火は次つぎと夜を彩り、女は、まるで姉のように、彼に花火の種類や名や、それぞれの特徴やを教えた。それに女の成長した環境を感じとりながら、だが、その区別を覚えるのに、彼はあまり身を入れてはいなかった。
彼はただ、花樹の苗に挿された副木のような、女のやさしい線の美しさに結びつけられている、そんな棒立ちの気持だけを反芻していた。どこか頑なに背を反らした姿勢の、甘く、快い満足があった。
緑いろの華が、色とりどりの無数の光の造花が、そんな彼の目に咲き、夜空を賑わせては滑り落ちた。
もう、いくつか瞬く星も明るく、数えきれなかった。