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つきのまつやま
月の松山
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页
彼は広雲寺の無元和尚に会いにいった。その臨済派の老僧にはたびたび教えを受けたことがあった。禅堂で坐ったこともあるし、講話を聴きに通ったこともあった。彼は和尚と会って話せば、その苦悶から救われるかもしれないと考えた。
――そうだ、老師に会うだけでも、この苦しさを克服することができるだろう。
そして彼は広雲寺の方丈を訪ねた。
老僧は茶を淹れ、自分で栗を焼いて彼をもてなした。孝也はなにも云えなかった。無元和尚は非凡な作家である、だが彼とは縁のない人であった。彼の苦悶とは縁のない、遠いところにいる人であった。孝也は無元と対坐しながら、かつて無元が「生死関頭」について語ったことを思いだした。
――飛花落葉。
老僧は生死を超脱していた。彼もまた老僧について生死の関頭を打破した。生があり、死がある。花が散り葉が落ちる、「死」はごく自然なものである、――慥かに彼は、かつて生死超脱の境地をつかんだと思った。けれどもいま無元和尚を前にしてみると、「死」の恐ろしさがいかに深く大きいか、いかに救い難いものであるかを知った。
――そうだ、この恐ろしさは老師にはわかってもらえない、わかってもらっても、老師にもどうすることもできないだろう。