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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页

青空文庫

三

茂庭の小太刀は古法で、一般的にはすでに流行からおくれ、殆んど忘れられかけているが、それでもなお古法を慕って来る者が(数は少ないけれども)跡を断たなかった。――孝也もむろんその一人である。彼は浪人の子で江戸に育ち、十六歳のとき孤児になった。父の宗城伊十郎は越前家の勘定方に勤めていたが、重役に涜職問題が起こったとき、その責任を負わされて退身した。浪人してからの伊十郎はすっかり世を拗ね、なにもせずに酒ばかり飲んでいたが、やがて妻と相前後して死んだ。

――おれにもしものことがあったら。と父は死ぬまえに云った。この人を訪ねてこの手紙を読んでもらえ、たぶんおまえのことを引受けてくれるだろう。

父の死後、彼はその人を訪ねた。それは越前家の重役だったが、手紙を読むと孝也を茂庭信高に預けた。「修業を積んだら主家へ推挙しよう」という約束だった。しかし、それから数年のちにその人も死んでしまった。

三

その人が生きていたら、孝也は越前家へ仕えただろうか。そうではあるまい、男子のない信高は早くから彼に眼をつけていたようだ。

「自分もそれを望むようになっていた」孝也は呟いた、「世に出るよりも、此処で一生くらしたいと思い始めた、――桂が好きになったからか、そうだ、桂が好きになったからだ、桂を妻と呼ぶことができ、此処で一生くらせるなら、宗城