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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页

青空文庫

孝也はそれを認めると馬に乗った。茶屋から出た二人は、こっちへは来ず、武家屋敷のほうへ曲っていった。孝也は静かに馬を進め、横町の半ばで追いついた。二人は蹄の音を聞いて、少し左側へ身をよけた。孝也はそこで馬を停めた。相手は提灯をあげてこちらを見た。

「通れ、――」大道寺九十郎が云った、「おっ、茂庭の宗城だな」

「宗城孝也だ」と彼は馬上から云った。

「なんの用だ」日野数右衛門が云った、「果し合の取消しか」

やっぱりそうか、と孝也は思った。

「そうではない、時刻の変更だ」と孝也は云った、「十時では人が邪魔に入るかもしれない、もっと早朝にしたいのだ」

「きさま助勢する気か」

「おれ一人だ」と孝也は云った、「西秋は来ない、おれ一人だ」

「早朝とはなん刻だ」数右衛門が云った。

「四時なら明けている、四時ではどうだ」

二人は眼を見交わした。

「よかろう」と数右衛門が云った、「明朝四時松山の砦跡だぞ」

孝也は馬を返した。

その夜、孝也は二通の手紙を書いた。一は掃部介信高、一は西秋泰二郎に。それから外へ出て、熊の仔の檻のところへいった。あれからまもなく、弥六が檻を作って、その中へ熊の仔は入れられていた。