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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

「あれは雲じゃないの。」

「さあー……。」

横飛びに飛んで、向うの無花果の木の低い枝につかまり、ぴょんと跳ねて葉の間から覗くと、黒雲の下がすっと切れて、紅をぼかした銀色に輝いていた。

「大丈夫ですよ、下が切れてるから。」

海鳴の音がいつもよりはっきり聞えていた。地引網の喇叭が響いてきた。たとい日の出が見られなくとも、損にはならなかった。それにもうどうせ起き上ったのだから。

「俊子さんも起してくるわ。待っていらっしゃい。」

彼が深呼吸をしてる間に、日に焼けた姉の浅黒い顔と俊子の蒼いほど白い顔とが、ふわりと飛んできた。

草の葉末にたまった露を踏んで、粗らな松林の裾をぬけると、その向うがすぐ海だった。松の間から東の空がちらちらと見えていた。

「あら、あんなに雲がかけてるわ。」

僅かな雲だと思ったのが、暫くの間に東の空を蔽い隠して、なお次第に拡がりそうだった。

「仕方ないから地引網の綱でも引くんですね。朝っぱらから景気がいいですよ。」

砂丘の上に、蟻のような人影が見えていた。

「知らないわ。……こんなに早くから人を起しといて!」

つんと澄してすたすた足を早める後から、俊子は落付いた声で注意した。