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げつめい
月明
豊島 与志雄
「新小説」1921(大正10)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页
三
」
「まあ、いやだこと!」
その叫びにも無頓着かのように、俊子はやはりじっと沖の方を見続けていた。
「もう帰りましょうよ。何だか気味が悪いから。」
広い砂浜には、太陽の光りがじかに照りつけてるきりで、誰の姿も見えなかった。彼方に数隻の漁船が、置き忘られたように静まり返っていた。
「海を見てると、何だか引き込まれるような気がするものね。」
俊子はそう云って、初めて我に返ったらしく立ち上った。
三
気味が悪いと云いながらも、姉は地引網を引張ってやるのが好きだった。
朝早くから十時頃まで、波がさほど高くない時、海岸の方々でそれが行われていた。
「立って見てねえで、手伝ってくれたらよかんべえ。」
そういう囁きが耳にはいってから、姉はいつも着物の裾をからげて、逞しい男女の間に交って、地引網の綱につかまった。一生懸命に引張ってはいるのだが、つかまってるのと大差なさそうだった。彼も時々綱を引いてみた。沖に引かれる力の強さを手に感じて、ともすると足がよろけそうだった。ただ俊子は、少しも手出しをしなかった。
鯵や梭魚の類が、少い時は桶四五杯多い時には三四十杯も取れた。特殊な魚だけを別により分けて、残ったのを桶一杯ずつ砂の上に積み上げた。